沙羅はいわゆるお嬢様だ。
経営者の父に、元客室乗務員の美しい母。
父はもともと名門の生まれだったので、祖父母も上品でお金もあって余裕がある。
そんな沙羅には、誰にも言えない秘密があった…。
経営者の父に、元客室乗務員の美しい母。
父はもともと名門の生まれだったので、祖父母も上品でお金もあって余裕がある。
そんな沙羅には、誰にも言えない秘密があった…。
沙羅は、幼い頃庭の手入れに来ていた初老の男性に出会った。
優しくて穏やかな彼は、祖父の代からの付き合いがあるという庭師で、いつもニコニコ穏やかな表情で、木を愛おしそうに見つめて仕事をしていた。
ある時、まだ見事に咲いている花を落としている彼に近づき、沙羅は尋ねた。
「どうしてお花切っちゃうの?」
優しくて穏やかな彼は、祖父の代からの付き合いがあるという庭師で、いつもニコニコ穏やかな表情で、木を愛おしそうに見つめて仕事をしていた。
ある時、まだ見事に咲いている花を落としている彼に近づき、沙羅は尋ねた。
「どうしてお花切っちゃうの?」
庭師は、微笑んで言った。
「まだ綺麗に咲いとるんだがなあ。あんまりたくさんになってしまうと木の元気が無くなってしまうんだわ。」
そして、梯子から降りて赤い花を沙羅に渡してくれた。
「お部屋にでも生けておやり。」
その時、風が吹いた。
「まだ綺麗に咲いとるんだがなあ。あんまりたくさんになってしまうと木の元気が無くなってしまうんだわ。」
そして、梯子から降りて赤い花を沙羅に渡してくれた。
「お部屋にでも生けておやり。」
その時、風が吹いた。
すると、庭師の体から、あまり沙羅が嗅いだことのない匂いがした。
ちょっと獣のような、独特の…すえた匂い。
あまり裕福とは言えない庭師だったので、おそらく毎日風呂に入ってはいなかったのだろう。
お嬢様の沙羅が嗅いだことがなくて当然の匂い。
その匂いはなぜか沙羅の鼻と記憶にこびりついた。
胸がドキドキする、いけない匂いだった。
ちょっと獣のような、独特の…すえた匂い。
あまり裕福とは言えない庭師だったので、おそらく毎日風呂に入ってはいなかったのだろう。
お嬢様の沙羅が嗅いだことがなくて当然の匂い。
その匂いはなぜか沙羅の鼻と記憶にこびりついた。
胸がドキドキする、いけない匂いだった。
それから数年が経ち、優しい庭師のおじいさんは引退してもう沙羅の家に来ることはなくなっていた。
それほど仲良くしていたわけでもない沙羅は、すっかり彼の存在も忘れていた。
あの匂いを再び嗅ぐまでは…。
それほど仲良くしていたわけでもない沙羅は、すっかり彼の存在も忘れていた。
あの匂いを再び嗅ぐまでは…。
中学生になった沙羅は、いわゆる名門と言われる女子中学校に通っていた。
家族は車での送り迎えをすすめたが、ほかのみんなと同じように電車で通いたかったので断っていた。
その日、沙羅はお友達のみどりと綾という同級生と一緒に学校を出た。
みんな駅まで歩き、同じ電車に乗る子達だ。
駅の手前で、エスカレーターの下に座り込んだ男を見つけた。
通りをゆく人は遠巻きに無視していた。
家族は車での送り迎えをすすめたが、ほかのみんなと同じように電車で通いたかったので断っていた。
その日、沙羅はお友達のみどりと綾という同級生と一緒に学校を出た。
みんな駅まで歩き、同じ電車に乗る子達だ。
駅の手前で、エスカレーターの下に座り込んだ男を見つけた。
通りをゆく人は遠巻きに無視していた。
身なりは悪く、ボロボロの服を着ている。
顔や手も薄汚れているのが遠目にもわかった。
「あれ、ホームレスだよね。」
綾は忌々しそうに言った。
「やだ、汚い…。怖いね、あっちから行こう。」
みどりはそう言って反対の階段を指差した。
顔や手も薄汚れているのが遠目にもわかった。
「あれ、ホームレスだよね。」
綾は忌々しそうに言った。
「やだ、汚い…。怖いね、あっちから行こう。」
みどりはそう言って反対の階段を指差した。
沙羅はなぜだかその男から目が離せなかった。
自分でも怖いと思う。
でも、何か懐かしい気がしたのだ。
「今日風強いねー。」
みどりが言いながら先を歩く。
自分でも怖いと思う。
でも、何か懐かしい気がしたのだ。
「今日風強いねー。」
みどりが言いながら先を歩く。
「花粉飛んでる…。」
沙羅は花粉症がひどい。
この季節はハンカチと目薬などが本当に手放せない。
ポケットから綺麗にアイロンのかかったハンカチを取り出した。
沙羅は花粉症がひどい。
この季節はハンカチと目薬などが本当に手放せない。
ポケットから綺麗にアイロンのかかったハンカチを取り出した。
その途端強い風が吹いて、白地にピンクの刺繍のあるハンカチをさらって行ってしまった。
「あっっ…!」
ハンカチを追いかける沙羅。
「沙羅ちゃん!」
後ろで綾の声がした。
沙羅の白いハンカチは、座り込んだ男のもとに飛ばされていた。
「あっっ…!」
ハンカチを追いかける沙羅。
「沙羅ちゃん!」
後ろで綾の声がした。
沙羅の白いハンカチは、座り込んだ男のもとに飛ばされていた。
「いいよハンカチなんて!」
綾が叫んでいる。
でも、沙羅はもう男の元まで来てしまっていた。
(どうしよう…怖い…けど…)
男は眠っているのかと思ったけれど、視界に沙羅の靴が入ったようで顔を上げた。
綾が叫んでいる。
でも、沙羅はもう男の元まで来てしまっていた。
(どうしよう…怖い…けど…)
男は眠っているのかと思ったけれど、視界に沙羅の靴が入ったようで顔を上げた。
「何か…」
どろんとした眼。
顔は明らかに薄汚れている。
「あ、の、ハンカチ…が…」
どろんとした眼。
顔は明らかに薄汚れている。
「あ、の、ハンカチ…が…」
白い布切れは、男の後ろに潜り込んだところで止まっていた。
男はゆっくりと首をひねり、ハンカチを見つけた。
それを拾うと、手を伸ばしてさらに渡した。
その時、男が体を動かした拍子に、男の体臭が香りだった。
男はゆっくりと首をひねり、ハンカチを見つけた。
それを拾うと、手を伸ばしてさらに渡した。
その時、男が体を動かした拍子に、男の体臭が香りだった。
(あ……!)
それは沙羅には覚えのある匂いだった。
すえたような、決していい香りとは言えない、でも…また嗅ぎたくなってしまう匂い。
その瞬間、沙羅の細い二本の足の間がジーンとした。
初めての感覚に沙羅は驚いた。
それは沙羅には覚えのある匂いだった。
すえたような、決していい香りとは言えない、でも…また嗅ぎたくなってしまう匂い。
その瞬間、沙羅の細い二本の足の間がジーンとした。
初めての感覚に沙羅は驚いた。
だがそれが何かはまだ知らず、男が差し出すハンカチを受け取りに身をかがめた。
その時、さらに強烈に男の体臭がした。
きゅん…
今度はさっきよりもさらにはっきりと初めての感覚に襲われた。
その時、さらに強烈に男の体臭がした。
きゅん…
今度はさっきよりもさらにはっきりと初めての感覚に襲われた。
「あ、ありがとうございます…」
沙羅は礼を言って後ずさった。
男は気にもとめていないようで、また眠っているのかわからないさっきのポジションに戻った。
「…ちゃん!沙羅ちゃん!」
ハッと気づくとみどりと綾が心配そうにこっちを見ている。
沙羅は礼を言って後ずさった。
男は気にもとめていないようで、また眠っているのかわからないさっきのポジションに戻った。
「…ちゃん!沙羅ちゃん!」
ハッと気づくとみどりと綾が心配そうにこっちを見ている。
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