「優先搭乗のご案内です…」
羽田空港の出発ロビー。有香の待つゲート前にアナウンスが流れる。
「ママ、もう飛行機乗れるー?」
足元で娘のアリスがワクワクした目で見つめている。
「そうだね、じゃあ行こうか!」
羽田空港の出発ロビー。有香の待つゲート前にアナウンスが流れる。
「ママ、もう飛行機乗れるー?」
足元で娘のアリスがワクワクした目で見つめている。
「そうだね、じゃあ行こうか!」
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有香とアリスは夫と三人で暮らしているパリから、横浜の実家に里帰りしてた。
楽しかった一時帰国も終え、これからパリに帰る12時間のフライトだ。
仕事の都合でパリに残った夫とも一ヶ月ぶりの再会。
4歳になったばかりのアリスもパパに会えるのを楽しみにしている。
楽しかった一時帰国も終え、これからパリに帰る12時間のフライトだ。
仕事の都合でパリに残った夫とも一ヶ月ぶりの再会。
4歳になったばかりのアリスもパパに会えるのを楽しみにしている。
子連れということで優先搭乗を許され、ガラガラの機内に乗り込む。
すぐにたくさんの乗客がやってきて、機内はざわざわとしている。
ほとんどの乗客が乗ったかと思われた。
けれど有香とアリスの隣の1席は空いたままだ。
すぐにたくさんの乗客がやってきて、機内はざわざわとしている。
ほとんどの乗客が乗ったかと思われた。
けれど有香とアリスの隣の1席は空いたままだ。
「アリス、もしかしたらお隣誰もいないのかな?」
「ここー?」
「うん、いなかったら広々寝られるよ!」
子連れのフライトはなかなか大変なので、1席広く使えるととても助かる。
…と思っていたら、どさりと荷物が置かれた。
「ここー?」
「うん、いなかったら広々寝られるよ!」
子連れのフライトはなかなか大変なので、1席広く使えるととても助かる。
…と思っていたら、どさりと荷物が置かれた。
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あー、残念…
見上げると、レザージャケットに白シャツの似合う、長身の白人男性が立っていた。
フランス人っぽい。
彼が席に落ち着くのを見計らって、有香はフランス語で話しかけた。
子供が迷惑をかけてしまうこともあるので、事前に一言かけておくと印象が違うものだ。
見上げると、レザージャケットに白シャツの似合う、長身の白人男性が立っていた。
フランス人っぽい。
彼が席に落ち着くのを見計らって、有香はフランス語で話しかけた。
子供が迷惑をかけてしまうこともあるので、事前に一言かけておくと印象が違うものだ。
彼はにっこり笑って問題ありません、ご心配なく、と答えた。
おそらくまだ若い、20 代後半か30代に入ったかどうか。
よく見るととても整った顔をしていて…有香とアリスに話しかけるその笑顔はとても柔らかい。
優しそうな人でよかった…。
ホッとして、少し話した。
おそらくまだ若い、20 代後半か30代に入ったかどうか。
よく見るととても整った顔をしていて…有香とアリスに話しかけるその笑顔はとても柔らかい。
優しそうな人でよかった…。
ホッとして、少し話した。
アリスの顔を見てハーフだとわかったようで、恥ずかしがって答えないアリスにも年を聞いたりしてくれている。
フライト、大丈夫そうだな…
有香は安心してアリスの前のモニターをいじり始めた。
フライト、大丈夫そうだな…
有香は安心してアリスの前のモニターをいじり始めた。
飛行機はほぼ定刻に滑り出し、キャビンアテンダントの飲み物サービスが始まった。
3席の真ん中に座るアリスは、彼側のCAさんの担当らしく、彼にアリスのための飲み物を尋ねた。
アリスに聞こうとしてくれた彼と目があってニコッリ笑う。
本当にいい人そう。
3席の真ん中に座るアリスは、彼側のCAさんの担当らしく、彼にアリスのための飲み物を尋ねた。
アリスに聞こうとしてくれた彼と目があってニコッリ笑う。
本当にいい人そう。
その後も何度かそういうことがあった。
アリスは見るからに白人とのハーフだし、キャビンアテンドさんたちは私たちが三人親子だと思っている人もいるようだった。
わざわざ「この人他人です」というのもおかしいし、彼も特に気にしていないようだったので、そのままにしておいた。
アリスは見るからに白人とのハーフだし、キャビンアテンドさんたちは私たちが三人親子だと思っている人もいるようだった。
わざわざ「この人他人です」というのもおかしいし、彼も特に気にしていないようだったので、そのままにしておいた。
数時間が経って、朝が早かった有香は、アリスが起きているのについうとうとしてしまった。
その時もサービスが来ていて、「マダム…マダム?」という声をすぐそばに感じてハッと目を開けた。
彼がアリスの前まで身を乗り出し、少し困ったような顔をして、声をかけていた。
その時もサービスが来ていて、「マダム…マダム?」という声をすぐそばに感じてハッと目を開けた。
彼がアリスの前まで身を乗り出し、少し困ったような顔をして、声をかけていた。
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その瞬間、機体がガクンと大きく下がった。
機内から女性の「キャー!」という声が漏れるほどの揺れで…その衝撃で、彼の顔は私の直ぐそばまで近づいた。
鼻と鼻が触れるほどに…
そしてとっさに身支えるため、手をついた。
私の腿に。
「Pardon!」
彼は慌てて離れた。
機内から女性の「キャー!」という声が漏れるほどの揺れで…その衝撃で、彼の顔は私の直ぐそばまで近づいた。
鼻と鼻が触れるほどに…
そしてとっさに身支えるため、手をついた。
私の腿に。
「Pardon!」
彼は慌てて離れた。
夫と離れて一ヶ月、男をこれほど近くに感じ、偶然とはいえ触れられたのは久しぶりで、つい有香はドキッとしてしまった。
甘やかな彼の香水が鼻腔をつく。
有香の中の女が、敏感に反応した。
甘やかな彼の香水が鼻腔をつく。
有香の中の女が、敏感に反応した。
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揺れは幸い一度だけで直ぐに落ち着いた。
私たちは恥ずかしさからつい饒舌になり、お互いのことを話した。
彼は仕事で初めての日本だったこと、そしてパリでの住まいが実はそれほど遠くないこともわかった。
小さい街だから、実はすれ違ってたかもしれませんね、と言い、次第に打ち解けた私たちは互いに名乗った。
私たちは恥ずかしさからつい饒舌になり、お互いのことを話した。
彼は仕事で初めての日本だったこと、そしてパリでの住まいが実はそれほど遠くないこともわかった。
小さい街だから、実はすれ違ってたかもしれませんね、と言い、次第に打ち解けた私たちは互いに名乗った。
彼、ジョナタンは、日本の仕事用に作ったという名刺をくれた。
名刺を持たない私は、手書きで連絡先を渡した。
いい友達になれそうだった。
そう、いい友達に…。
名刺を持たない私は、手書きで連絡先を渡した。
いい友達になれそうだった。
そう、いい友達に…。
パリに到着したのは昼過ぎで、また会いましょうと言い、別れた。
空港には夫が迎えに来ていて、その一ヶ月ぶりに見る笑顔に、旅の疲れをどっと感じて車の中ですでに眠ってしまった。
空港には夫が迎えに来ていて、その一ヶ月ぶりに見る笑顔に、旅の疲れをどっと感じて車の中ですでに眠ってしまった。
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