<前回のあらずじ>路上で倒れていた男性を救助したクレア。しかし、その男性の顔には見覚えがあった。ありえない展開がさらなる奇跡を起こそうとしている。果たして、二人の関係はどうなっちゃうの!?
クレアは今にも失神してしまいそうな意識をなんとか取り戻して尋ねた。「あなた、もしかしてリチャードさん?」思わず手が震える。「あぁ、そうだよ。本名はダニエル。助けてくれてありがとう。」男性はスラスラと答えて髪をタオルで乾かしている。「どうしてまた路上に?」クレアは質問を続けた。「それがさ、今日は本当に珍しい休暇が取れて、気分転換にと外へ出かけたんだよ。ただ、自分で言うのもなんだけど、僕はトップスターだ。かなり変装しなければならない。で、普段着ないような服を身に着けて外へ出たわけだ。しかし、その服が思ったより重くてさ。しばらく歩いていたら具合が悪くなってしまって、そこへ君が来たってわけ。」男性は冷蔵庫にあったビールをぐいっと飲み干した。
「いやー、死ぬかと思ったよ。ほんと、君のおかげで命拾いしたのかもしれない。」ダニエルはニコニコと笑った。「私も怖かったですよ。このまま死んじゃったらどうしようって。」クレアは顔を手で覆った。「心配をかけてごめんね。マスコミがうるさいから、救急車は避けたかったんだ。」ダニエルはクレアの頭をポンポンと撫でた。クレアの顔が真っ赤になる。そして、ダニエルの全身を上から下へ、下から上へと見た。「トップスターって、普通の人間なんですね。」クレアは自分でも何を言っているか分からなかった。ハハハとダニエルは笑う。「僕はただの人間だよ。ほかの人よりもテレビに出ているだけさ。」そう言ってクレアと握手をした。
「色々と面倒を見てもらっておいて恐縮なのだけれど、家に帰る途中でまた倒れたら怖いから、良かったら自宅まで付き添ってくれないかな?」ダニエルは申し訳なさそうにクレアを見つめる。「は、はい。それは良いですけど、大丈夫ですかね?マスコミとか。」クレアは驚きながらも答えた。「そうなんだよね。僕が女を連れているのはマズイ。そこでひとつ提案があるのだけど。」ダニエルはクレアへ耳打ちをした。「え!?」クレアは目を丸めた。
ダニエルには年老いた母親がいるらしい。そこで、母親になりきって付き添って欲しいとのことだった。腰の角度はこう、手つきはこう、歩き方はこうすることなどその場で指導を受けた。クレアはダニエルに触れられる度、ドキドキしていた。
そして、外へ出ることになった。顔はスカーフで隠し、ヨタヨタとおぼつかない足取りの振りをする。そもそも、ラブホテルから老婆を連れて出てくる時点で不自然ではないかとクレアは思ったが、ダニエルの「大丈夫だから。」を信じてついていくことにした。
ホテルを出ると待っていたかのようにスッと黒い車がやってきた。ダニエルの運転手らしい。速やかに乗ると、そのまま車は発進した。
「ダニエル様が大変な目に遭っているとも知らず、大変失礼しました。」運転手は謝った。
「君の仕事は運転手だ。レスキュー隊ではない。気にするな。」ダニエルはすぐに返した。
「ここは問題ないんだけど、大きな壁は自宅前だ。しっかり頼んだよ。」
ダニエルはそう言ってクレアの頭を撫でる。
「は、はい。」クレアはドキドキしていたが、それが緊張によるものだけだとは思えなかった。
そして、外へ出ることになった。顔はスカーフで隠し、ヨタヨタとおぼつかない足取りの振りをする。そもそも、ラブホテルから老婆を連れて出てくる時点で不自然ではないかとクレアは思ったが、ダニエルの「大丈夫だから。」を信じてついていくことにした。
ホテルを出ると待っていたかのようにスッと黒い車がやってきた。ダニエルの運転手らしい。速やかに乗ると、そのまま車は発進した。
「ダニエル様が大変な目に遭っているとも知らず、大変失礼しました。」運転手は謝った。
「君の仕事は運転手だ。レスキュー隊ではない。気にするな。」ダニエルはすぐに返した。
「ここは問題ないんだけど、大きな壁は自宅前だ。しっかり頼んだよ。」
ダニエルはそう言ってクレアの頭を撫でる。
「は、はい。」クレアはドキドキしていたが、それが緊張によるものだけだとは思えなかった。
大きな豪邸に着くと複数人の人影が見えた。「あれがパパラッチってやつね。」クレアは窓の外をそっと見た。車の外側から車内は見えないようになっている。「そう。色々聞いてくるけど、声は出さなくていいから。何も反応しなくていい。顔を絶対に出さないことと、素振りだけは宜しく頼んだ。」ダニエルは少し面倒くさそうに言った。「わかったわ。」クレアは答えた。
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